Episode #00 | Felix

Episode #00 | Felix

 私はラコルダム北部の労働者階級の家に、三人兄弟の末子として生まれました。日も昇らない朝早くに、父と母、それと年の離れた兄二人は働きに出ていくので、幼い頃はもっぱら山手の祖父母の家に預けられていました。

 初等学校に入ると、私は天文や鉱物、生物などに興味を持つようになりました。放課後は決まってスケッチブック片手に森を踏み分けて、木こりの家を訪ねるようになりました。鳥の鳴き声や星の動きなど、ありとあらゆることを教わりました。十二歳になる頃には数学や文学、音楽にも興味を持つようになりました。
湖畔に浮かぶ小舟と、橋でつながるドーム型の塔を描いた線画イラスト
 初等学校卒業後は、もちろん兄二人と同じように私もそのまま働き始めると思っていましたが、ソルハンプトンへ出稼ぎに行った兄二人の援助もあり、私は中等学校に進学することができました。しかし家計が厳しいことには変わりなく、私は朝晩に活字拾いの仕事を始めました。それでも兄二人の期待を裏切るわけにはいきませんでしたから、決して勉学を疎かにすることはなく、寸暇を惜しんで学問に打ち込みました。その甲斐もあり、私は中等学校を首席で卒業することができました。

 中等学校卒業後は、担任のコルパドック先生の推薦を受けてオルドリバー財団の奨学金を獲得し、私はオークパドリー学術院への進学を果たしました。学術院では、数理科学研究科のカポリ先生のもとで数学と天文学の指導を受けました。

数理科学研究科(Institute for Mathematical Sciences)の正面入口を描いたレンガ造りの建物の線画イラスト
 学術院を修了した後は、メルチャイルド銀行にリスク計算手としての働き口を見つけることができました。僅かではありますが、多少ゆとりのある生活を送れるようになりました。しかしそれから間もなく、疫病と冷害の年、取り付け騒ぎの人波に揉まれメルチャイルド銀行が経営破綻しました。その煽りを受けて、私たちの一家は長年暮らしてきたフラッツからの退去を余儀なくされました。兄二人はすでに別々で暮らしていましたから、私は父母と共にマルブリックの公営団地へ移り住むこととなりました。

 職を失った後はしばらく日雇いで食い扶持を繋ぎましたが、しばらくしてマルブリックのアートカレッジに空きがあるという話を耳にしました。私は学術院の友人アルベルトの伝手を利用して、運良く常任講師としての職を得ることができました。昼間は工芸科のアトリエで学生に電磁気の講義を行い、夜間には美術科の有志学生を集めて代数幾何のセミナー指導を行いました。

木造のアトリエ内に作業台が並ぶ、屋根梁の見える線画イラスト
 そして私が二十五になる年、私は教え子たちを引き連れて、ラコルダムの空き家となった祖父母の家を改修して、小さな商店を始めました。